万年筆をカイマンネン

万年筆に憧れていた。

大人になったら万年筆が欲しいと思っていた。

 

就職祝いに買ってあげましょうと母親が言ってくれたことがあったが、

就職祝いをもらえるようにきちんと就職せず、転々としちゃったりして、

そのうち言った本人も忘れ去り、

転々としてるくせに万年筆を買ってくださいといも言えず、今に至る。

 

まさか、自分でも買えるとは思ってもなかったので驚いたが、買えた。

今年こそは、誕生日に万年筆を。

とうとう夫が買ってくれると言ってくれた。

 

万年筆はどこで売っているのか調べ、なるほど銀座ね、と電車に乗り

やってきた伊東屋

銀座はすごい、伊東屋はすごい。

こんな手帳を使いこなしたい、こんな手ぬぐいで汗をぬぐいたい

扇子も、財布も、キャンドルもなんでもある。

こんなすてきな便箋で手紙でも書いてみようかしら?

手に取るも、手紙を送る相手がうかばず悲しくなってそっと戻す。

 

二店舗もあるんだ。

万年筆のある棟にゆく。

入り口を入ると、高級な香りがプンと漂う。

まるで宝石でも売ってるかのようなラグジュアリーな店内におののく。

みたいなと思いつつも、屈強な大陸の人たちが多くて負けそうになる。

 

がんばれ、私。

初めての一本を買いたくて、、、

それから始まる試し書きの連続、熱心に書いて書いて、書き心地を比べてみる。

そして、絞り込んだ一本。

 

あれ?やばい、絞り込んでしまった。

結局決められずまた来ますっていうパターンになると思っていたのに決めてしまった。

 

一万円。

 

おいおい、たかがペン一本に一万円も払っちゃうの?

無職のくせに、手紙書く相手もいないくせに、作家気取りか?

 

悪魔の声が聞こえてきた。

こんな時、頭の中には悪魔しか出てこない。悪魔はやめさせようとしてくる。

買い物をやめさせようとする悪魔。

あれ?それは悪魔なのか。悪魔は買っちゃえとささやきそうだ。

まあいい。とにかく私を邪魔するやつ。

 

まごまごする。

この状況に、ドキドキする。

心の中も頭の中も、今、フル回転なのだ。

いいのか、私。いいのか、いくのか?私。

 

ペンを持ったまま立ち尽くしている私に夫が声をかける。

店員さんを前に、、ここまできて買うどうか迷っています。といえず、もごもごする。

買いたいと思っているのだけど、買いますの宣言をしちゃうの?私?

無職なのに?どうしましょう。と一人盛り上がっているのだ。

そして、その胸の高鳴りにひどく興奮しているんです。たのしい!!

 

まぁいつまでもそんな気分に浸って楽しんでいたら迷惑なので、

楽しいし買おう、と、買います!と宣言してやったり。

 

宣言してからも、選択の連続である。

まず、本体の色。赤にしようと思っていたが、黒のほうが気になる。

また迷う。

鏡で合わす方もいますよと言っていただき、恥ずかしながら、

万年筆と私、で鏡に映る。

黒にした。

次、字の太さ。細字?中字?

次、インクの色。

次、替えのインクも付けますか?

次、ケース付きますけど、茶?黒?

次、名前も入れられますけど、、、

 

あぁ、たくさんの選択の末、ようやく買えた。

私の万年筆。

名前が彫られて、数日後手元に届くのだ。

たのしみだなん。