メモから始まる時間旅行

 

よく晴れてカラッとした天気の日にしまってください

 

5月人形の説明書にはそう書いてあった

今日は曇り空

ジメッとはしていないが、カラッとでもない

 

でもしまっちゃうよ

どんどんしまっちゃうよ

 

天気に合わせるということよりも、ぼうやを見てくれる人がいる時ということのほうが今は大切だ

 

冬物も毛布も、どんどんしまっちゃうよ

 

しまっちゃうおじさん

ならぬ、しまっちゃうおばさんになって

 

ついでに押入れの中も整理整頓

 

こうゆうことは一度手をつけたら最後とまらなくなってしまう

 

もう使っていないハロゲンヒーター

夫が過去にバイトしたスーパーのジャンパー

夫が少しの間働いたブラック企業の鬼社長からもらったおじさんサイズのワイシャツ

その時通勤に使っていたカバン

などなど、どんどん捨てちゃうよ

 

なんだこのダサいカバン

腑抜けな青年が久しぶりの社会復帰を果たした際にとりあえず肩から下げた時のカバンとでも言いましょうか

これは昔、ロンドンへ短期遊学しにいったときにパソコンを入れて持ってったカバン

ひどい

カビ臭いからこれも捨てちゃおう

 

中身をごそごそすると紙切れが出てきた

 

荷物を日本に送ったときの控えや

飛行機の中でもらったゴミ袋など

バンの中は私がロンドンから帰国した時のまま時間が止まっていた

なつかしい

それはもう10年以上前ののとだ

 

その中に小さなメモ用紙の束

開いてみると、あら、これは

当時住んでいたハウスシェアの大家のばあさんが書いた領収書だった

 

当時は1ポンド200円

領収書には154ポンドという金額と日付

だいたい3万円?月に3万円?

あれそんなに安かったかな?

3万円ならも少しがんばってロンドンにいればよかったか?

 

まてよ、確か、週に77ポンドだったような…

ああ、2週に一度のお支払いで154ね

1ヶ月で6万円ね

うん、そんなもんだ

 

今はどうだか知らないけれど、当時私がロンドンにいた時は週単位の値段で家賃が書いてあって、週70くらいのとこに住みたいと思いつつも見つからず77だった

ロンドンの西側、日本人が多くわりと治安が良くて人気だと言われていた街

家賃もそれなりであった

 

東側はアーティストがおおく、北は移民が多い南のテムズ川の向こう側はダメとか言われていたなぁ

 

領収書の文字はどれも汚くてよめない

そんなよめないメモの中に一枚だけしっかりした文字でかかれたものが

住所だった

 

母親はこまめに手紙をくれた

日本食もまとめて送ってくれた

私もよく手紙を書いた

 

慣れないアルファベットで書かれた住所

その母の文字を見るだけで

いつも涙が滲んでしまった

 

母親はとても心配していた

私もその気持ちはよくわかっていた

けれど、その時の私はどうしても一度ロンドンで生活してみたかったんだ

何をしたいわけでもないけど、日本を一度離れて遠いところへ行ってみたかった

ただそれだけだった

遠いところへ行きたかったんだ

 

本当に心配かけたと思う

それは今になってそう思うけど

20代始めの頃の私はそんな心配は重荷としか思っていなかった

 

 

心配なんてしないでよ

手紙なんて送らないでよ

じゃないとさみしくていつもお母さんのことばかり考えちゃって、家に帰りたくなっちゃう

もっとここでがんばってみたいけど

いつもどこか家族のことばっかり思い出して

何をやっても楽しくない

しっくりこない

こんなに心配かけてまで私ががんばりたいことなんてあるのだろうか

 

 

そんなことを考えながら私は2階建てバス

2階の一番前の席に座り

あてもなくロンドンの街をぐるぐるぐるぐる

まわっていた

 

考えて、考えて

もう考えるの嫌になったころ冬がきて

冬のロンドンは驚くほど日照時間が短くなって

もうそんなことにまるで耐えられなくて

傷心の帰国

 

ロンドンへ行ったけど、何もしなかったし

一年ももたなかった

そんな自分のことを

ずっと情けないって思っていた

 

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たった数枚の紙切れによって

わたしはすっかりタイムスリップしてしまった10数年前のわたしに会いに行ったような気分

できれば、声をかけてやりたいな

 

そんなに落ち込むなよ

がんばれ、20代のわたし